2009年1月26日月曜日

『「日本の経営」を創る』

「日本の経営」を創る―社員を熱くする戦略と組織


現在ミスミグループCEOの三枝 匡(さえぐさただし)氏と経営学者伊丹敬之(いたみひろゆき)氏の対談本。

《主なテーマ・ジャンル》

経営戦略、事業変革、リーダーシップ、組織戦略、経営者育成、経営史、日米比較

《こんな人にお勧め》 
経営者、事業責任者、部門リーダー、これらを目指す若手ビジネスマン、企業再生・事業変革を目指す全ての人、日本企業の経営に危機感を持つ全ての人


経営者と経営学者という立場は違えど、どちらも日米双方の経営をそれぞれの経験した上で、常に時流に流されずに自らの観察眼と論理性で「日本の経営」を語ってきた二人の対談。
日本の経営を過去からアメリカと比較しながら論じたもので、日米の普遍的な違い、言い換えれば普遍的な日本企業の強みと弱みを把握し、日本企業がこの先どのように活力を取り戻していくかを論じています。

全般的に経験に基づく三枝氏の考えに対し、伊丹氏がそれをより一般化・普遍化すべく質問を投げかけるスタイルで対談が進みます。
対談というスタイルや、両氏の念頭においている企業イメージの違い(伊丹氏がトヨタや松下のような超大企業を念頭に置きがちなのに対し、三枝氏はそこまではいかない多数の大企業を念頭に置いている)のため、時にまどろっこしい感じもしますが、新たな理論の普遍化が生まれる瞬間を読んでいる感じが面白いです。

前半は日米比較で議論が進み、それぞれの強み・弱み、そして今の日本企業がなぜ今の体たらくの状態になったかが語られており、とても納得性があり、現状を理解するのにとても役に立ちます。
しかしどちらかというと文明論・文明史を読んでいるような面白さで直接ビジネスの改善に役立つ感じはしません。
90年代後半に社会人になった私の年齢および自社が国内事業のみのせいなどがあるのでしょうが・・・。
とは言え、もちろんこの部分を把握することにより、今後の「日本の経営」が見えてくることは間違いないことだと思いますので、必要な議論であることは間違いないでしょう。

後半は、今後の日本企業の改革に必要と思われることを三枝氏の考えが、伊丹氏の質問によって、より普遍化されていくことに軽く興奮します。
こう書くと難しいですが、もっと簡単に言えば三枝氏の今までの著作を読んだ人には、三枝氏の言いたかったことがよりよく分かるようになります。
私が一番印象的だったのは、人の心を動かせる戦略、つまり三枝氏の言葉で言うマインド連鎖を起こせる戦略のポイントが伊丹氏の質問により「シンプルなストーリー」と「個に迫る」と「勝ちが見える」の3点に整理された部分です。
学者の行う普遍化という作業にちょっと感動します。

現在、私はまさしく自社の再生を目指しているところですが、この本はすごく参考になりつつすごく不安にもなります。
もしかしたらもう手遅れか?と。
それくらいこの本は現実に迫ってくるものがあります。
なんと言っても『V字回復の経営』や『戦略プロフェッショナル』に書いてあることを、より普遍化しているわけですから。

2009年1月13日火曜日

『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』

Hot Pepperミラクル・ストーリー―リクルート式「楽しい事業」のつくり方

『Hot Pepper』を4年で売上300億、営業利益100億の事業に育て上げ、リクルートの「狭域ビジネスモデル」を確立し、『タウンワーク』『じゃらん』等の事業化を一気に実現した元リクルート執行役員、平尾勇司氏の著作。


《主なテーマ・ジャンル》
事業変革、新規事業、経営戦略、リーダーシップ、マネジメント、組織戦略、組織運営、営業戦略、選択と集中

《こんな人にお勧め》
経営者、事業部門長、部門リーダー、新規事業部門、自分で何か事業を始めたい人。


感動します。
ビジネス書の中であまりない感動で泣ける本です。
それはきっとこのHot Pepperという事業の創造が本当に多くの人の感動を巻き込んで成し遂げられた感動のストーリーだからだと思います。
逆に言えば、どちらかというとストーリー仕立てな本であって、ロジカルに整理されたものではありません。

副題の「リクルート式「楽しい事業」の作り方」という言葉が意外と深いです。
リクルート式かどうかはあまり問題ではないと思いますが、まずは「楽しい」という言葉。
Hot PepperのCMのイメージなどからもしかしたら「ユーモアがある」とか「愉快な」という意味に捉えてしまうかもしれませんが、もちろんそうではありません。
「最高にエキサイティングで感動的な」という意味だと思います。
Hot Pepperのイメージに合うように(?)または本の販売のインパクト上あえて「楽しい」という軽い言葉にしたのかな。
なのでこの「楽しい」主体は内部の人間であって、外部からの見た目の話ではありません。

次に「事業」という言葉。
当たり前ですが、「事業」は「家業」(つまり個人商店や町工場のような)とは違います。
「家業」は中心となる運営者が、限られたマーケットもしくは顧客に対し、商品・サービスを提供するのに対し、「事業」は多くの人を巻き込み、はるかに成長志向でビジネスの拡大を目指すものです。
もちろん「家業」にも「事業」にもそれぞれメリット・デメリットがあり、それぞれに運営の仕方があります。
当たり前のことですが「家業」のように商品・サービスを提供しながら、「事業」を運営することはできない(or 非常に難しい)のに、実はビジネスの現場ではそんな間違いはたくさんある(うちの会社もすぐ間違える!)。
この本はあくまで「事業」としてビジネスを発展させるために、何が間違いなのか、何が大事なのかを教えてくれます。

そして最後に「つくり方」という言葉。ちょっと深読みかもしれませんが、、、
経営書のように小難しいものではない、理路整然と整理されたものではない、戦略ももちろん書いてあるがもっと大事なものがある。。。
この本のもっとも特徴的なところが、どのようにして多くの社員を巻き込むか、どのようにして社員の気持ちを「~ねばならない」から「~したい」に変えるか、どのようにして社員を熱狂させるか、というところに非常に重きを置いているところです。
「つくり方」という言葉はこのあたりを表現できていると思います(ちょっとこじつけだな・・・)

「ビジョンや戦略を物語として語る」という言い方をしています。
ロールプレイングゲームみたいなもので、人は物語の中でミッションを持つと自分の行動の意味づけができて感動を共有できるのだと思います。
世の中は会社/仕事にロールプレイングゲームより物語がなくてミッションばかり与えられることばかりでしょうけど、物語は放っといてできるものではなく、きちんと設計して、きちんと語らなければならないものなのでしょう。
この本が言っているのはそういうことだと思います。

あまり書いてある内容そのものには触れていませんが、そこはぜひご一読を。
絶対に買って損はないと思います。

2009年1月12日月曜日

『戦略プロフェッショナル』

戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ

現在ミスミグループCEOの三枝 匡(さえぐさただし)氏の著作。
同氏の『経営パワーの危機』、『V字回復の経営』と合わせて、あまりにも有名なベスト&ロングセラー。




《主なテーマ・ジャンル》

経営戦略、事業変革、リーダーシップ、マーケティング戦略(プロダクト・ライフサイクル、セグメンテーション、プライシング)、選択と集中、経営管理

《こんな人にお勧め》 と言いますか必読です!
経営者、事業責任者、部門リーダー、戦略・企画部門、マーケティング部門、これらを目指す若手ビジネスマン


内容はドラマ仕立てで、フィクションではありますが、著者が実際に自らリードした企業変革を基にしていてとてもリアリティがあります。

以下、私の理解ですが、、、
同氏の著作は一貫して「日本には戦略プロフェッショナル人材が圧倒的に不足している」という問題意識に基づいています。
同氏の言う戦略プロフェッショナル人材とは単に論理的に戦略を考えられるMBAホルダーや企画担当ではなく、自らリーダーとしてチームを引っ張り、自ら戦略を緻密な実行戦略に落とし、実行し、進捗・結果をしつこくレビューし、最終的に成功に導ける人材です。
もっと簡潔に言えば戦略立案能力とそれを断固として実行する強いリーダーシップをもっと人材と言うことですが、日本企業のビジネスマンにはどちらの能力も欠けており、その育成のためのケーススタディとしてこれらの本を書いているということです。

「リーダーシップ」という観点からはどの著作も共通だと思いますが、「戦略」という観点からは著作によりテーマが異なっているようです。
ケーススタディなので、その会社の経営改善・事業変革に必要な戦略が異なるので当たり前といえば当たり前ですが。
V字回復の経営』の戦略上のメインテーマは組織戦略です。
顧客に密着し、「創って作って売る」のサイクルを速く回し、責任を明確にするために組織を小さくシンプルにする。Small is beautiful.

一方『戦略プロフェッショナル』の戦略上のメインテーマはマーケティング戦略です。
もう少し細かく言えば、プロダクト・ライフサイクルであったりセグメンテーションであったり価格戦略であったり。
特に著者の言葉で言えば「絞りと集中」ですが、定番の言葉で言えば「選択と集中」が強調されています。
理論的にはマーケティングを勉強した人には基礎的な内容だったりもしますが、複雑な現実の中でいかにその理論を当てはめて実践するのか、という点で非常に参考になると思います。
特に本当の「選択と集中」は必ず組織に無理を強いることになるので、戦略だけ立てたところでそれは道半ば。
それを実行に移す緻密なプランニングとしつこいモニターをリーダーが自らやることが必要だと説いています。

私はあまり本を読み返すことはありませんが、この本は繰り返し読む価値あります。
あとはこれを実践できるか?
だんきち、できるのか!?
この本を読んで感銘を受けた全国のビジネスマンの皆様、がんばろー。